東京高等裁判所 昭和42年(く)119号 決定 1967年10月26日
少年 S・M(昭二五・九・四生)
主文
原決定を取り消す。
本件を東京家庭裁判所に差し戻す。
理由
本件抗告の理由は右抗告申立人古野陽三郎作成提出の抗告申立書に記載されたとおりであつて、結局原決定の処分は著しく不当であるというに帰する。
よつて、本件少年保護事件記録および少年調査記録を検討するに、本件非行事実は原決定が引用する司法警察員送致書(二通)記載のとおり二回に亘り他の少年数名と共謀のうえ二名の少女を強姦したもので、その態様からしても罪質は極めて軽からざるものがあり、他面少年の家庭環境も中流のいわゆる健全な家庭ではあるが、両親の監督に不行届の点があつたことに鑑みれば、本件非行を契機としてこの際何等かの保護処分を加える必要のあることは充分に認め得るところであり、原審がその認定説示する少年の従来の素行、性格、交友関係と、これに由来する前記非行に照らし、いわゆる在宅保護の処分を以てしては到底少年の健全な改善育成を達し得ないものと判断し、少年に対し中等少年院送致の保護処分に出たことは、一応首肯し得られないわけではない。
しかしながら、右記録上明らかなように少年は過去において保護処分を未だ一回も受けたことがなく、その資質性格も必ずしも自主的矯正の望みが全くないものとは認められず、当裁判所の事実取調の結果によると、少年の高校休学以来の不良グループとの交友、その間の放漫な遊楽生活も、当時父親が名古屋への転勤により同地に単身赴任したことが主たる契機となつていることが認められ、原決定後において少年の両親は従来の少年に対する監督不行届を深く反省悔悟し、少年をして従来の不良交友関係から断絶せしめ、厳重な監督指導のもとに、附和雷同的性格の矯正を計り、少年を休学中の学校に復学させて勉学に専念するよう努力すべき旨を誓約しており、かつ、少年の在学する学校長は少年の父親の旧師でもあり、原審における少年の本件審判当時は外遊中であつたところ、帰国後本件を知るや、直ちに上申書を当裁判所に提出し、全責任をもつて必らず本人を善導し、将来は同校に直結する○○学院大学に進学させる決意である旨を切々と訴え、更に当審受命裁判官にも同様の心情を披瀝しており、また少年の義兄においても、従来の放任態度を一擲して両親の右方針に協力すべき決意を表明しており、少年自身もまた衷心より過去の非行を悔い改め、復学によつて立ち直るべき強固なる熱意を有することが認められる。
叙上の如き諸事情を勘案し、今や少年再起の重大な転機となりつつある現状に鑑みるときは、この際在宅保護により少年の健全な教化育成を期することを相当とすべき余地がないとは断じ難いので、これと異なる見地に立つて少年を中等少年院に送致する旨決定した原審の処分は、結局において失当に帰するというのほかはなく本件抗告は理由がある。
よつて少年法第三三条第二項、少年審判規則第五〇条により原決定を取り消し、本件を原裁判所に差し戻すこととし、主文のとおり決定する。
(裁判長判事 坂間孝司 判事 沼尻芳孝 判事 近藤浩武)
編注
受差戻家裁決定(東京家裁・昭四二(少)一三七一九号 同一五〇三七号 昭四三・三・二一決定保護観察)